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HOLD UP = 手向かいしない意思を示すために両手を上げる事。強盗、強奪。
フィリピンにいる日本人、フィリピンに関わっている皆さんが耳にしたことのある言葉だと思います。
最近では、ロックダウンが始まった当初、リトルトーキョー付近で日本人の方が被害に遭われましたね。
銃社会であるフィリピン、要求を飲まなかった場合、最悪な結果が待っているかもしれません。
ナイフも簡単に手に入ります。
黙って全てを渡すことが、自分の命を守る上で大事な判断となります。
命より大事なものはありませんから。
今回はベテランさんが過去にタクシーでホールドアップに遭ったお話。
忘れもしない、2010年の12月。
フィリピンに赴任してからおよそ2年の月日が流れておりました。
ちょうど遊び慣れし始めていた頃でした。
慣れてきた頃が一番危ない、と経験者は語るものです。
12月はフィリピン人にとって一番大事なイベント、クリスマスがあります。
そしてその後すぐにニューイヤーが待っています。
1年の中で、一番お金が必要な時期なのです。
その日は土曜日。
夕方5時にシャワーを浴び、髪を乾かし、WAXで髪をツンツンに仕上げてスプレーで固定。
格好は半袖Tシャツにハーパン、サンダル。
若かりし頃のベテランさんの基本スタイルです。
今のスタイルは、服装は変わらないのですが、髪にコシが無くなり、ツンツン立たなくなりました。笑)
香水を振り掛け、意気揚々と1人でマラテへ。
7PMからKTVを3軒ハシゴ、その後に最後の店、サチ。
新世界ビル2階にあった大箱の店でしたね。
ステージが広く、ステージの壁一面がモニターだったのが印象的な店でした。
ホロ酔い状態でサチを出ます。
入口のエレベーター前には、いつもママさんが2、3人います。
常連の私はママに、
ベテランさん『マカティまでタクシー、メトロでお願い。』
と言い、タクシーを捕まえてもらいました。
タクシーに乗った時は運転手の顔も確認していませんでした。
ベテランさんは後部座席右側に乗り、下を向き携帯をイジっておりました。
5分後くらいに辺りの景色を見渡します。
ベテランさんの心の声『あれ、なんか全然知らないルート走ってるな・・・。』
マラテのKTVで遊んでからタクシーでマカティのコンドに帰る。
これを毎週繰り返していたベテランさんは、いつもとの違いにすぐに気付きました。
このあたりからホールドアップの言葉が頭を遮ります。
『これ、やられるな。。。』
案の定タクシーは暗がりの路地裏で車を停車。
黙って車の助手席にあるダッシュボードからナイフを取り出す運転手。
ナイフはサバイバルナイフっぽいタイプ。刃渡りは10cmくらい。
運転手の左手はハンドル、右手にはナイフ。
身体を後ろ側に仰け反らせ、ナイフを私に向けます。
運転手『 MONEY! Give me MONEY!! 』 金だ!金をよこせ!!
ここで初めて運転手の顔と容姿を確認します。
見た感じ50代後半。
坊主頭、痩せ型。
どう考えても私がこのジジィに負けるはずがない。
たとえ相手が武器を持っていたとしても。
間髪入れずに運転手の右手首を自分の両の手でホールド。
・・・・・・・・・・
一旦ここで、ベテランさんの学生時代の話をさせて下さい。
小学校時代、2年間空手をやっていました。
村のスポーツ少年団で、型重視の空手でした。
フルコンタクトではなく、寸止めです。
ベテランさんは先生が嫌いでした。
組手も型重視なのに、たまに蹴ったりしてくる先生だったのです。
とある日の型の稽古中、先生を相手に練習をしていたのですが、私が型を間違えた途端、太腿にローキックをされました。
痛みでスイッチが入ります。
型の振りをして、先生の顔面、鼻めがけて本気の正拳突き。
顔を抑えて片膝をつく先生。
鼻血が床に垂れ落ちます。
そのまま先生の顔面に飛び膝蹴り。
先生倒れます。
周りで見ていた他の先生は、何が起きているのか状況判断できずにいました。
事態を把握した先生方が止めに入る。
親に連絡される。
親父が現場へ駆けつけ、みんなの前で私をボコボコに。
親父を止める先生達。地獄絵図でした。
これが原因で小学5年生でクビ(退団)。笑)
小学生がクビになるって凄い話だと思います。
更に小学生から中学生にかけて、柔道をやっておりました。
こちらも村のスポーツ少年団。
中2の時ですね、やっぱり嫌いな先生がいたんです。
25歳くらいの若い先生で、乱取りの度に、必ず巴投げで私をぶん投げるんです。
巴投げ以外使わない先生で、毎回巴投げで投げられる私はイライラ。
正直に舐められていると思いました。
先生が巴投げに入るタイミングで覆いかぶさります。
マウントポジションからの顔面殴打。
今までの怒りを存分に解放するベテランさん。
先生方が止めに入る。
親に連絡される。
親父が来る。
親父にボコボコにされる。
先生方が親父を止める。地獄絵図。
結果またクビ。笑)
ベテランさんの攻撃性の高さ、分かってもらえたでしょうか?
沸点が異常に低かったんですね。
しかもホールドアップされた時は30歳。
油の乗った時期だったのです。
ホールドアップされたという事実よりも、こんなジジィが俺様にホールドアップを仕掛けてきた事が許せなくなり、怒りが爆発します。
両手で運転手の手首を後ろに捻り上げます。もちろん全力で。
痛みでナイフを後部座席の床に落とす運転手。
まさか反撃されるなんて思いもよらなかったでしょう。
ここからはベテランさんワールド。
左手で運転手の手首をがっちりホールドしつつ、右手でガンガン殴ります。
助手席のヘッドレストが付いていなかったので、思う存分に右手を振り回せました。笑)
運転手は必死に左手で顔をガードしていましたが、そんなのは関係ない。
ガードの上から、ガードの隙間から。
運転手が『Sorry…』と謝り出したところでドアを開けて外に出ます。
ベテランさん『 Swerte mo, Lefty ako. 』 運が良かったね、俺左利きだから。
落ちたナイフを拾い、思いっきり遠くの方へブン投げます。
そして運転席のドアを開けるベテランさん。
ハンドル付近の小物ポケットに入っていたタクシーの売上げ金、およそ400ペソを慰謝料として回収。
タクシー後部座席のドアに本気の横蹴り。ドアが凹みます。
放心状態の運転手。
しばらく動こうとはしていませんでした。
何もなかったかのように路地裏を歩き出し、大通りに出て、流しのタクシーを捕まえます。
ベテランさん『マカティまで、メトロでお願い。ホールドアップって怖いよね♥』
そのまま無事にマカティのコンドへ。
これがベテランさんの武勇伝。
ホールドアッパーが返り討ちされてホールドアップされた話。
普通の人が絶対にしない事をするのが快感だったんです。
私の親友しか知らない話です。
皆さん、もしホールドアップされたらおとなしく現金、携帯を渡して下さい。
命は一つしかありません。
命より価値のあるものは、この世にありませんから。
というのが、『今の』私の見解でございます。笑)
若気の至りなので、ご容赦ください(・・;)